着物は循環衣裳
誰が考えたかも解らない着物の形が500年以上も変わらない。羽織ると言う形だけを取り上げれば2000年近く同じ形が続いている。こう言う衣裳が他の国にあるだろうか?ないーー
八枚の布のパーツ[袖2枚、身頃2枚、襟2枚、衽2枚]を縫い合わせ着物ができる。直線縫いなので無駄な布は出ない、1ミリも布を捨てない、カーブの場所は布を小さく細く畳み込んで曲線を形作る。
着物の素材である絹は蚕が8の字を描きながら糸を吐き繭を作る。その繭から糸を引きその糸を8の字の形で束ねる。
絹に限らず麻も木綿も糸を強くするために撚糸や束ねる作業にいつも8という形がついて回る。
完成したきものも女性には「身八口」という八つの通気孔を持つ、衿口、袖口二つ、振り二つ、みやつ口二つ、裾、この八つは外の空気を取り込み、中の空気を出す。そのため夏は暑くなった空気を外にだし、涼しい風を受け入れる。冬はその空気を中に取り込み温める。
8という数字は無限大を意味する。着物はその無限大を意識したように、きものを循環して永遠に着続けていける構造になっている。
着古したきものをほどくと布はもとの反物に戻り、そこからまた新しい着物として、また帯になったり羽織に姿を代えたりしながら命を長らえる。
さらに古い布からもセリシンが取れて、石鹸や化粧水になる技術も生まれている。まるでメビウス(永遠に続く輪)のよう。
着物は
一つの形なので色や模様が多様化した
たった一つの形を幾通りにも着る知恵を私たちの先人は色や模様に変化をつけた。そのため、何万色という色が生まれ、その色に付けられた名前がまた文学的でもある。それは日本人の精妙な感性のたまもの。そしてその色の地色に描かれる着物の模様はさらに多数多様で芸術性に富んでいる。
先人たちが日常の中で自然を観察しながら産み育てた着物の色や模様、それを私たちはまた未来の子供たちに繋げていく楽しみを持つ。
きものを着る喜びというのは、先祖の知恵を身に着け感じ、その魂を大切に育んでいくこととのように思う。
きもの文化研究家、きものエッセイスト、きものジャーナリスト
大分市出身。共立女子大学文芸学部卒業。女性誌の編集記者を経て(株)「秋櫻舎」を設立。
きもの季刊誌「きもの秋櫻」の発行。
「きものが私をどう変えるか」というきっかけからきものを着続けて40年。きものを切り口に日本の文化、日本人の考え方の基本を学び伝承している。 農林水産省蚕糸業振興審議会委員として、国産シルクブランドの開発に携わる。『きものサロン』などのきもの雑誌の企画・監修、執筆。風水、オーラ・ソーマの研究もすべてきものから派生したもの。
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