手織りの良さ

手織りのススメ

手織りのススメ

衣の織主宰 大久保 有花

機(はた)織りは、経糸(たていと)の間に緯糸(よこいと)を一本ずつ通していく単純な動作の繰り返しです。線だった糸が、織ることで面として布になっていきます。1㎜にも満たない緯糸が、着物一反分の長さ約13mに織り上がるには、私の使っている緯糸だと1㎝間におよそ34本打ち込まれているのが目安なので、だいたい、44,200回緯糸を通している計算になります。とても時間がかかりますが、とにかく手を動かして織っていると、必ず、織り上がる日がやってきます。

この機織り中、ノってくると集中が高まって、身体と機が一体化し、無心の境地になることがあります。それはなにか、瞑想中の状態に近いような気がします。それはとても心地の良い状態です。瞑想は心に良いと言われていますので、実は機織りも心に良いのではないかと、密かに私は思っています。

地機では、織った布をお腹の前の棒に巻き付けていくので、日に日に反物が太く育っていく感覚があります。そうやって何十日、場合によっては何ヶ月も、ともに過した布が織り上がった時の充実感たるや、凄いものです。地機では経糸が自分の身体と繋がっていますので、反物を切り離す時は、嬉しいけれど一抹の寂しさが漂います。ハサミを入れる瞬間は、厳粛な、まるでへその緒を切るような、そんな何とも言えない気持ちに駆られます。このとき、作業中ずっとつながっていた源のエネルギーが、反物の中に凝縮されるのを感じます。

たかが機織り――されど機織り。手織りによって得られる充実感は、必ず、出来上がった布の風合いに反映します。手織りの衣の、色と肌触りから得られるこの味わいを、多くの人に感じてもらい、さらに興味のある方には実際の手織りを体験してもらいたいと思っています。

手しごとや
野の絢紬
みんなのたんす